無花果-イ・チ・ジ・ク 漫画ネタバレ結末ブログ

坂辺周一作の漫画「無花果-イ・チ・ジ・ク」のネタバレ・結末・試し読み・あらすじ・感想をまとめたブログ。

阿部定事件~ふたりの女~ネタバレ感想(3)安武わたる

阿部定と再会したお栄は、普通の主婦に収まっている自分と、世間の目を気にせずにひたすら「好い人」と呼べる男性を探し求め、男に愛される定を比べて嫉妬する。

「まっとうな人生」を生きてきたはずのお栄だったが、ちっとも幸せではないみじめな自分に気づく。

 

それにくらべ、定は「あたしを愛して、大事にしてくれる男と巡り会えた」と笑い、女としての幸せを享受している。

お栄は自分の不幸さに対する憎しみを定にぶつけ、ふたりの関係を男の妻に密告してしまい、あのトンデモナイ『阿部定事件』が起こります。

「阿部定事件~ふたりの女~」のあらすじ・3

吉田屋を出奔するふたり


阿部定と石田吉蔵は、不倫が妻にバレてしまったために4月23日から吉田屋を出奔し、居所を転々と変えた。

このときのことを、阿部定はこう語っていたという。



「私は、生まれて初めて女を大切にし、喜ばせてくれる男と出会ったと思い、離れられなくなりました」

閨でのふたりは時を惜しむように激しく愛し合い、定は何がどうあってもこの男を手放したくない、と思うようになる。

「定吉二人」切り落として身につける阿部定


とうとう、床で吉蔵の首を締めて殺害、自分もすぐに後を追おうとするも「店を持たせてくれると言ってくれた先生」へのお詫びや、彼女にとって最も愛しいものーー『一番大事でかわいいモノ』切り落として身につけることにした。

なぜなら、それを彼の妻や他の誰にも触らせたくなかったからだった。



吉蔵の血を指にとり「定吉二人」と彼のももに描き、何食わぬ顔で身支度をして『大事なもの』を包んで着物の胸元に隠して出かけた定。

阿部定は「先生」に会ってから、生駒山で飛び降りて死のうと思っていた、というが逃避行の途中で逮捕されてしまう。


幼馴染だけが知る阿部定の思い


『阿部定事件』の顛末を新聞で読んだお栄は、夫は「たいした騒ぎだ。同じように包丁持ち出してよ、切り取られなくてよかったぜ」と、先日キレて刃物を持ち出したことをからかわれた。

だが、お栄の返事は乾ききっていた。

「切りゃしませんよ。あたしはそこまで幸せじゃないですから」



世間の人は、お定ちゃんの悪口をひどく言うだろう。



お栄には、阿部定の気持ちが痛いほどにわかっていた。

「死んでもいいと思える男と出逢えたんだもんねえ。幸せよ、定ちゃんは。
あんた、子供のときからその人を探してたのかもしれないね」

あれはろくな人生を歩めない、と定の生き方をバカにしていた母親の言葉を思い返す。



「うん、おっかさん。そのろくでもない人生が、あたしにはうらやましくてたまらない」

お定ちゃんのように、自分の気持ちに素直に『好い人』を探し求めることができていたならーー



定のように生きてみたかった、と男に愛される女の幸せを知らないお栄は、心から泣いていた。

阿部定事件~ふたりの女~の感想


道を外れることなく、地味に堅実に生きてきたお栄のような女性であれば、狂うほどに愛し愛される男性の存在、というものは自分には決して手に届かない遠くにあるもののように思えます。

少女時代にK大生に襲われてしまった定は、女性として身を持ち崩して転落していきましたが、「愛するひと」を見つけることを決してやめようとはしませんでした。


男によって破滅させられた人生であっても、ケロッと「男に助けられている」と言える阿部定に、その心がとてもカラッとして明るいものを感じます。

自分が世間の人たちから後ろ指を指されるような存在だとわかっていても、自分が自分であることを恥じない強さ。

だからこそ、彼女に心惹かれて「一肌脱ごう」という男性たちが、つぎつぎに現れたのだと考えられます。



そしてやっと巡り会えた運命の恋人・吉蔵は阿部定にとって「最高の男性」「好い人」であり、「誰にも渡したくない」という独占欲で例の『切り落とし』をやってしまうわけです。

その姿を想像するとゾクッとする魔性のものを感じながらも、たとえ命をなくしてもいいと思えるほどの強い狂気の愛に惹かれてしまいます。

当時の方たちも「阿部定パニック」となるほどの熱狂と興奮をもって、この事件を見守っていたことでしょう。

この漫画の阿部定は、「恐ろしい正気をなくした女」としてではなく、ひとりの愛を激しく求めた女性として描かれており、読後感もとてもスッキリしていました。

 

安武わたる先生の作品レビュー

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